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  ケガその後
報告者   事務局 ,    報告日時   20080727

 右足の靭帯損傷をしたと5月に書いた。車イスの写真を見て、驚きとお見舞いの言葉を何人かのみなさんからいただいた。あれは「臨時の措置」のはずだった。

 

本文


 右足の靭帯損傷をしたと5月に書いた。ウェブに載った車イスの写真を見て、驚きとお見舞いの言葉を何人かのみなさんからいただいた。

 あれは、ケガをした直後、タイに行くために空港内の移動だけをお願いした臨時の措置、のはずだった。

 ところが、その後、思うように回復ならず、杖を使いつつ右足に体重をかけられないまま活動をしていた。結局5月末の沢登りキャンプでは、沢登りそのものは断念。右足で立てないのだからしょうがない。それでも枝を杖にして足場の悪い山道を歩きつつキャンプ地を行ったり来たりしていた。

 きっとそんなことも関係しているのだろう。

 6月4日、私は英国エジンバラに出発することになっていた。野外教育の特別な集まりで発表するためで、前日から私は東京に来ていた。10年前からの腰痛がこの朝は激しく、ほとんど正常に立てなくなってしまった。

 右足がしびれているのがわかった。でももうオンラインでチェックインも済ませてあり、先方は待っているのだからと、何とか飛行場に向かおうとした。移動はきっと可能だったが、荷物がまったく持てない。

 このままの状態で長時間の飛行機は無理だと判断し、断腸の思いで急きょキャンセルをすることにした。チケット代は戻らない。

 1日経っても痛みは治まるどころかひどくなった。
 結局救急車で、叔父が見つけてくれた近くの病院に運ばれた。生まれて初めて救急車のタンカで横になった。天井や車の壁につけてある酸素吸入用のマスクやさまざまな機材を見つめながら、いったいどんな人たちがこの同じタンカで横になっていただろう、と考える。

 タンカからは窓の上部だけが見えるが、途切れなくビルが流れていく。そうか、救急車は信号も関係ないんだ。

 検査のあと、入院となった。MRIの結果を見ながら担当医師はすぐに「椎間板ヘルニアですね」と一言。自分で見てもびっくりするくらい大きく、白く写っているものが飛び出していた。

 それから3日。ここ数年で一番、本を読んだのではないだろうか。時間に追われる日々では仕事に関係するものにささっと目を通すのが精いっぱいだが、この時はそうした仕事関係の書類も本もなかったので、持ってきてもらった歴史小説など、普段とまったく違うものをじっくり読んだ。

 1週間は海外出張の予定だったため、日本での約束がなかったのが幸いだった。しかしすぐに、会議や講演、大学の授業が迫る。野外でのプログラムもある。私が個人的に外国の友人を招待したプログラムだったりしている。

 これだけはという会のために外出許可を取り、コルセットをし座薬を持ち、病院の車イスを借りて、介助してもらいながら出かけた。次に、3日間連続して外出許可が欲しいと言った時に、看護師の顔が曇った。おかげで、その後に1泊2日の外泊もお願いしたいとは言えなかった。

 そんなことで、「自宅で安静にしながら活動してください」というよくわからない言葉をいただき、2週間で自主退院。それでも当時の歩行距離はせいぜい50メートル。1泊2日の研修をこなすために車イスを探した。

 自走式を借りてなんと1ヶ月で2900円。しかも同じ区内なら無料で配達・回収してくれるという。

 7月上旬まで、この車イスにさんざんお世話になった。立つことができ、短い距離なら動けるので、部屋に入ってしまえばそこでの用は足りるのだが、東京の場合、目的地までの公共交通機関が使えない。例えば東京駅の広い構内を歩くことができないので、新潟の自宅にも戻れない。大学も、キャンバスの中をタクシーで移動できないので、これも困難だ。

 けれども車イスでの電車での移動はスリリングだった。端的に言うと、一人での移動は極めてむずかしい。階段しかない駅、プラットホームと電車の間のギャップ、たくさんの人でいっぱいの車両・・・。

 つきあってくれた事務局の田中さんと一緒に、駅でエレベーターの表示を探す。

 東京駅は「バリアフリー」だそうだが、スロープやエレベーターが本当の隅っこにあるために、健常者が足早に入っていく改札を横目で見ながら、延々と移動しなくてはならない。明らかにじゃまもの扱いだ。

 車イスのまま案内所に行き、新幹線に車イスで乗りたいと言うと、そのためのスペースはない(正確には、かなり事前にアレンジが必要らしい)と平たく言われた。つまり、乗れないってこと???乗せるための努力すらしようとしないことにがく然とした。何のための民営化だったのか。

 車イスでの町への外出は、戦いだった。

 一方、驚いたのは渋谷駅だ。渋谷駅に着いて、有人改札に向かったら、駅員がまっすぐ近づいてきた。「よろしかったらお手伝いしますが、これからどちらへ行かれるんですか」。

 聞けば、そうしたサービス担当の職員が数名いるのだそうだ。1日に50人ほどの車イスの乗客を扱うのは珍しくないという。その人は物腰も柔らかく、話しもていねいで、実に上手に車イスを動かしながらはるか彼方のエレベーターの場所まで移動し、東横線の改札付近のこうした特別なニーズに対応する場所まで行って、その職員に、「こちらのお客様、都立大学駅までだそうです。よろしくお願いします」とつないで、私たちが今度は東横線の駅員と動き出すまで見送ってくれた。

 そして東横線では、二人がつき、一人が車イスを動かし、一人が車イスのスペースがある車両にスロープをかけた。こちらの対応も、私への声かけ含めて見事だった。都立大学駅でも駅員が待っていて補助してくれるという。

 この電車は、人身事故によって途中の駅で20分ほど止まった。再び動き出す前に、汗だくになった若い駅員が乗ってきて、私たちに同行するという。

 「事故の影響で作業が発生して都立大学駅の職員が対応できないから」だと言う。これには本当に驚いた。

 乗客のニーズに対応する部所があり担当の職員がいる駅では、こんなふうにきめ細やかでていねいな処遇をしてもらえる。しかしそうでない駅では、自分で移動できない人間には何の手も差し伸べてもらえない。もしくはよほど前からアレンジが必要だ。つまり、通常の外出では無理だ。

 お世話をしてくれる人がいるかどうかではなく、車イスでも自在に自由に独立して暮らせる町こそが、バリアフリーなのだと実感した。

 ところで入院から1ヶ月3週間ほどたった今、体力と筋力の低下は実感するが、腰の痛みはほとんどなくなった。鍼灸治療のおかげで平地もだいぶ歩けるようになった。ところが5月に痛めた右足首がいまだに腫れている。坂道では杖が必要だ。階段もきつい。

 筑波の整形外科医の友人によると、「足関節靭帯損傷(外側)は、かなり時間がかかる」とのこと。特に異常ではないという安心感と、まだまだ動けないのかという失望感の両方が混ざる。

 しかし夏は本番だ。すでにさまざまな予定をキャンセルしたが、明日からは新・地球人プロジェクトという、日本とタイの学生たちを対象にした持続可能性教育プログラムのため遠征に出発だ。そのあとも、キャンプ、畑のプログラム、早稲田大学のヤップ島実習と9月半ばまで続く。

 入院と鍼灸治療の間、身体についてあれこれ考えた。このところ、頭で突っ走り、少し身体や心との対話を忘れていたかもしれない。「今動くのをがまんしないと後に引く」という多くの方々からの忠告を胸に、頑張らないで済むところは休みながら日々を送ってみよう。


カテゴリー: 健康 


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