高野孝子の
地球日記

アサバスカン・インディアン

 川べりで歌うアサバスカンの年よりたち

 6月9日から16日までアラスカ内地の湿地帯で、アサバスカンインディアンのお年よりたちから学ぼうという趣旨のキャンプに加わりました。

 オールドミントと呼ばれるこの場所へはボートでしか行けません。ゆったりと流れるタナナ川を中心に、一帯が湿地となっています。

 もともとこの広大な湿原一帯で狩猟採集をしながら半定住生活をしていた一つの集団が、アメリカ政府の方針で1900年代初期に定住しました。

 重なる洪水のため30年前に、そこから約40キロ北に村を移動しミントと名づけましたが、オールドミントは一帯で暮らしを立てていたアサバスカンインディアンたちの文化やアイデンティティには大切な場所であり続けています。  

 私が参加したキャンプは、教師として村以外からやってきた人たちを対象に村の文化や考え方を知ってもらおうというもの。
 英語でculture bearerと言うのですが、伝統文化を受け継いでいる人たちと一緒にテントを張り、水をろ過し、燃料を集めて火を起こし、雨よけを作り、魚を捕り、樺の皮のバスケット作り、時にはカヌーを作り、、、生活をするということの中からた くさんのことを学びます。生活技術を学ぶというよりは文化そのもの、自然との関わり方や知恵、世界観や倫理、人とのつながり方といったことでしょうか。

 サケをさばくアサバスカンの人たち。イクラは彼らが好まないので、私がしょうゆ漬けにして食べました
 対象が教師ということになっていても、実際に年よりたちが本当に興味があるのは、自分たちの孫子に伝統を伝えていくことのようです。キャンプ中、お年よりの家族ごと村からやってきていて、子どもたちが走り回っています。一緒にトウヒの根を捕りに行ったり、狩りに出かけたり、伝統的な料理を囲むお祭り(ポトラッチ、ポト ラックと呼ばれます)の準備に加わります。

 アラスカの先住民族たちを総称してネイティブアラスカンと言いますが、その中のお年よりたちにとって、文化を伝えていくことが目の前の緊急の課題とされています。というのも、お年よりの子どもの世代(40代、50代)は「ロストジェネレーショ ン」と呼ばれ、アメリカ政府の方針で村から離れた寄宿生活で学校に行き、自分たちの言葉を話すと罰せられ、白いアメリカ人と同じように振る舞うことを強要された人たちです。少なくない人たちが自殺や事故、事件に巻き込まれて死亡し、残っている人たちも自分たちの言葉は使えず、文化的な知識や知恵もそっくり受け継いていません。これが彼らに劣等感を与え、その親たちにとっても深刻な問題となっています。

 自殺が多いこと、アルコール依存が強いこと、学校で落ちこぼれることなどの大きな理由として、アイデンティティや価値観がはっきりしていないことがあげられます。

 今世界中で、「伝統的な知識」「生活に則した知恵」のリバイバルがうたわれています。多国籍企業や一部の人たちの利益に利用されるケースもありますが、教育においてはこれまでの欧米の枠組みから脱して、内容も地域の風土や伝統文化を意識したものに変えようという動きがあります。アラスカでは15年ほど前から大きな課題としてさまざまな取り組みがされています。
 お年より達とのキャンプもその一環です。

 「学校という建物の中や決められた時間の中では教えられない、学べない、重要なことがある」とネイティブアメリカンの教師が言っていました。

 私の世代も、両親や祖父母の世代と比べて、伝統的な知識や技術に関しては圧倒的に知っていることやできることが少ないと思います。もっと若い世代は言うまでもないでしょう。一時は、地元の伝統文化から切り離す教育が、都市に労働力を提供し日本の経済発展に貢献したのでしょうが、コミュニティの機能が失われたことが社会に大きな損害を与えているように思えます。責任を取れるバランスの取れた大人を作り、未来の社会を考慮したり持続可能なライフスタイルにつながる教育が、日本のあちこちで始まったらいいなと思います。

(2001年7月8日記)

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